市販の殺虫スプレーを常備し、ゴキブリ対策は万全だと思っていても、チャバネゴキブリを相手にした時、その自信はもろくも崩れ去るかもしれません。彼らの駆除が、一般的なクロゴキブリに比べて格段に難しいのには、いくつかの明確な理由があります。第一に、その「薬剤抵抗性」の発達です。特に飲食店など、長年にわたって殺虫剤が頻繁に使用されてきた環境では、薬剤に耐性を持つ個体が生き残り、その遺伝子を受け継いだ「スーパードキブリ」とも言える集団が形成されていることがあります。市販のピレスロイド系殺虫スプレーを吹きかけても、ひっくり返ったかと思えば、しばらくするとまた起き上がって逃げていく、という信じられない光景が繰り広げられるのは、このためです。第二に、その「潜伏場所の巧みさ」が挙げられます。チャバネゴキブリは体が小さく、薄いため、ほんの数ミリの隙間さえあれば、どこにでも潜り込むことができます。冷蔵庫のモーター部分や、業務用であればコールドテーブルの内部、壁のひび割れ、コンセントプレートの裏、什器の裏側、段ボールの隙間など、暖かくて暗く、人目につかない場所を好んで巣を作ります。これらの場所は、殺虫スプレーの薬剤が届きにくく、駆除を困難にしています。第三に、前述した「驚異的な繁殖力」です。卵から成虫になるまでのサイクルが非常に短く、一度に生まれる数も多いため、駆除のスピードよりも繁殖のスピードが上回ってしまうことが多々あります。少し駆除に成功したと思っても、見えない場所で次世代が次々と育ち、すぐに元の数に戻ってしまうのです。さらに、チャバネゴキブリのメスは、卵鞘を産み落とさず、孵化する直前までお腹に抱えて持ち歩くという習性があります。これにより、卵は天敵や薬剤から守られ、より確実に子孫を残すことができるのです。これらの理由から、チャバネゴキブリの駆除は、単発的な攻撃では歯が立ちません。巣ごと、そして薬剤耐性を持つ個体も含めて根絶やしにするための、戦略的なアプローチが不可欠となるのです。