全ての始まりは、些細な物音でした。深夜、ベッドで静かに本を読んでいると、天井の向こう側から、何か小さなものが「カサカサ…」と移動するような音が聞こえてきたのです。最初は、家のきしみか、外の風の音だろうと、気にも留めませんでした。しかし、その音は、日を追うごとに、より大きく、より明確になっていきました。「カリカリ、カリカリ」と何かをかじる音。そして、複数の何かが走り回る「トタタタ…」という足音。それはもはや、気のせいなどでは済まされない、明らかな生命の気配でした。私の家の天井裏が、何者かの住処になっている。その事実を認識した時、私の平和な日常は、静かな恐怖へと変わっていきました。夜、寝静まると、天井裏の運動会はクライマックスを迎えます。まるで、小さな生き物たちが、追いかけっこでもしているかのような騒々しい足音。時には、「ドスン!」と何かが落ちるような大きな音がして、心臓が跳ね上がります。私は、いつか天井が抜け落ちて、その何者かとご対面してしまうのではないかという、馬鹿げた、しかし本気の恐怖に怯えるようになりました。そして、決定的な証拠が見つかったのは、キッチンの戸棚の中でした。置いておいたパンの袋が、無残にも食い破られ、中身が散乱していたのです。そのそばには、黒くて小さな米粒のようなフンが。ネズミだ。確信した瞬間、不快感と恐怖で全身に鳥肌が立ちました。もう、見て見ぬふりはできない。私は、震える手でインターネットを検索し、ネズミ駆除の専門業者に連絡を取りました。駆けつけてくれた業者の人が、点検口から天井裏を覗き込み、一言。「ああ、これはクマネズミですね。巣ができて、家族で暮らしてますよ」。その言葉に、私は天井裏の運動会の正体を、ようやくはっきりと理解したのでした。プロによる徹底的な駆除作業と、侵入経路の封鎖が行われ、数日後、我が家にはようやく静寂が戻りました。あの天井裏の騒音は、今となっては遠い記憶です。しかし、あの体験は、見えない場所で進行する脅威と、問題を放置することの恐ろしさを、私に痛いほど教えてくれたのです。
我が家の天井裏がネズミの運動会会場に