夏の蒸し暑い夜、網戸や窓ガラス、あるいは玄関の明かりに、おびただしい数の、白っぽく半透明な羽を持つ虫が群がっている。そんな光景に、不快感を覚えた経験はありませんか。多くの人は「またこの季節か」「ただの羽虫だろう」と、あまり気にも留めないかもしれません。しかし、その白い羽虫が、実はあなたの家を静かに蝕む、恐ろしい害虫「シロアリ」である可能性を考えたことはあるでしょうか。夏、特に梅雨の時期の、雨が降った後の蒸し暑い日の夕方から夜にかけて、一斉に飛び立つ習性を持つのが、ヤマトシロアリの「羽アリ」です。彼らは、成熟した巣から、新たな巣を作るための新女王と新王(オス)として飛び立ち、光に向かって集まり、ペアを見つける「結婚飛行」を行うのです。つまり、家の周りでシロアリの羽アリを大量に見かけたということは、その発生源である成熟した「シロアリの巣」が、あなたの家のすぐ近く、場合によっては床下や壁の中に、すでに存在していることを示す、極めて危険なサインなのです。シロアリの羽アリは、普通の黒いアリの羽アリとよく似ているため、見分けるのが難しい場合がありますが、いくつかの明確な違いがあります。まず、シロアリの羽アリは、胴体に「くびれ」がありません。頭から胸、腹までが、ずんどうな寸胴体型をしています。一方、黒アリの羽アリは、胸と腹の間がはっきりとくびれています。また、羽にも特徴があり、シロアリの羽は四枚ともほぼ同じ大きさで、体の二倍ほどの長さがありますが、黒アリの羽は前羽が後羽よりも明らかに大きくなっています。そして、シロアリの羽は非常に取れやすく、大量発生した翌朝には、窓際などに羽だけがたくさん落ちていることが多いのも特徴です。もし、あなたの家の中や、家の基礎のすぐそばで、これらの特徴を持つ白い羽虫を発見した場合は、決して「ただの虫」として放置してはいけません。それは、見えない場所で、あなたの家の土台や柱が静かに食い荒らされていることを示す、氷山の一角かもしれません。できるだけ早く、専門のシロアリ駆除業者に連絡し、床下の点検を依頼することが、大切な住まいを深刻な被害から守るための、最も賢明な判断と言えるでしょう。