それは、私が小学生だった頃の、夏休みの出来事でした。私の家の庭には、祖父が大切に育てている、大きな柿の木がありました。その夏、その柿の木の、手の届くくらいの高さの枝に、アシナガバチが巣を作っているのを、私は見つけました。巣の大きさは、まだ子供の拳ほど。シャワーヘッドのような、不思議な形をしたその巣を、私は、飽きることなく、毎日、少し離れた場所から観察していました。蜂たちが、せわしなく巣を出入りする様子は、私にとって、夏休みの自由研究の、格好のテーマだったのです。事件が起きたのは、八月の終わりの、風の強い日でした。いつものように、私は柿の木の下で、巣を眺めていました。その時、突風が吹き、柿の木の枝が、大きく揺れました。その瞬間、巣から数匹の蜂が、猛烈な勢いで飛び出し、私に向かってきたのです。パニックになった私は、泣き叫びながら、腕を振り回して逃げました。しかし、一匹の蜂が、私の右腕に止まり、チクッという、鋭い痛み。次の瞬間、そこには、焼けるような、激しい痛みが走りました。私は、大声で泣きながら家へと駆け込み、母に泣きつきました。母は、慌てながらも、刺された場所を水道水で洗い流し、毒を絞り出し、冷たいタオルで冷やしてくれました。しかし、私の腕は、みるみるうちに、パンパンに赤く腫れ上がり、肘のあたりまで、熱を持って硬くなっていきました。その夜は、ズキズキとした痛みで、ほとんど眠ることができませんでした。結局、その腫れと痛みが完全に引くまでには、一週間近くかかったと思います。あの時、私は、自然の生き物のテリトリーに、無邪気に入っていくことの危険性を、身をもって学びました。アシナガバチは、決しておとなしいだけの虫ではない。彼らにも、守るべき家族と、家があるのだと。あの夏の、腕に残った熱い痛みは、私にとって、自然への畏敬の念を教えてくれた、忘れられない教訓となっています。
私がアシナガバチに刺された、あの夏の日