「米びつに唐辛子(鷹の爪)を入れておくと、虫が湧かない」。これは、昔から日本の家庭に伝わる、おばあちゃんの知恵袋のような防虫対策です。一見、迷信のようにも思えるこの習慣ですが、実は、科学的な根拠に基づいた、非常に理にかなった方法なのです。なぜ、唐辛子は米びつ害虫を遠ざけることができるのでしょうか。その秘密は、唐辛子が持つ、あの独特の「辛味成分」にあります。唐辛子の辛さの元となっているのは、「カプサイシン」という化学物質です。私たち人間がカプサイシンを摂取すると、口の中に痛みや灼熱感を感じます。これは、カプサイシンが、舌や口腔内の痛覚神経を刺激するためです。そして、この刺激は、人間だけでなく、多くの昆虫にとっても、非常に不快なものなのです。米びつ害虫であるコクゾウムシやノシメマダラメイガは、その鋭敏な感覚器で、米びつの中に漂う、ごく微量のカプサイシンの成分や、その他の唐辛子特有の匂いを感知します。そして、それを「危険信号」あるいは「不快な環境」であると判断し、その場所への侵入をためらったり、産卵を避けたりするのです。つまり、唐辛子は、虫を殺す「殺虫剤」ではなく、虫を寄せ付けない「忌避剤」として、天然のバリアの役割を果たしているのです。この効果を最大限に引き出すための使い方は、非常にシンプルです。乾燥した唐辛子を、数本、お茶パックやガーゼのような、通気性のある小さな袋に入れて、米びつの四隅や、お米の中に埋めておくだけです。唐辛子の成分が、お米の味や香りに影響することは、ほとんどありません。ただし、その効果は永久ではありません。数ヶ月から半年程度で香りが薄れてきたら、新しいものと交換するようにしましょう。化学薬品を使わずに、自然の力で大切なお米を守る。唐辛子を使った防虫対策は、先人たちの鋭い観察眼と、生活の知恵が生んだ、サステナブルで、そして安心な方法と言えるでしょう。
唐辛子がお米を虫から守る理由