正直に告白すると、数年前までの私は、この世の何よりも家の中に出る蜘蛛が苦手でした。その不規則な動き、多数の目、そして何より、あの独特のフォルム。深夜にトイレに行こうとして、廊下の壁に巨大なアシダカグモでも発見した日には、短い悲鳴と共にその場で凍りつき、朝までトイレを我慢したことも一度や二度ではありません。見つけ次第、丸めた新聞紙を片手に、半ばパニック状態で叩き潰す。それが、私と蜘蛛との、長年にわたる関係でした。しかし、ある夏の夜の出来事が、私の価値観を百八十度、覆すことになったのです。その夜、私はキッチンの隅で、宿敵である一匹のゴキブリと対峙していました。殺虫剤を片手に、息を殺して距離を詰めた、まさにその瞬間でした。壁の上の方から、黒い影が、まるで流星のように、しかし音もなく滑り落ちてきたのです。アシダカグモでした。私の心臓は凍りつきました。ゴキブリと蜘蛛、二つの恐怖に挟まれ、私は金縛りにあったように動けなくなりました。しかし、次の瞬間、私は信じられない光景を目の当たりにしました。蜘蛛は、一切の躊躇なく、ゴキブリへと襲いかかったのです。その動きは、私がこれまで見てきた恐怖の対象としての動きとは全く異なっていました。それは、獲物を確実に仕留めるための、洗練されたハンターの動きでした。長い脚で巧みにゴキブリの動きを封じ込め、あっという間にその息の根を止めてしまいました。そして、誇らしげに獲物を抱え、再び壁の隙間へと、音もなく消えていったのです。あまりに一瞬の出来事に、私は呆然とその場に立ち尽くすしかありませんでした。残されたのは、静寂と、そして私の手の中で虚しく冷たくなった殺虫剤のスプレー缶だけ。あの夜、私は確かに見ました。害虫という悪を討ち滅ぼす、一人の孤高の騎士の姿を。以来、私は家の中で蜘蛛に遭遇しても、以前ほどパニックになることはなくなりました。心の中でそっと「パトロール、ご苦労さまです」と声をかけ、静かにその場を立ち去るようにしています。もちろん、今でもその見た目が好きになったわけではありません。しかし、彼らが益虫であるという事実を、私はこの目と心で、確かに理解したのです。